医療・ヘルスケア分野での安定同位体利用に向けた 分析技術の未来

医療・ヘルスケア分野での安定同位体利用に向けた
分析技術の未来

当社の空気分離技術と精製技術を活かした安定同位体(以下、SI)関連のビジネスは、医療関連のみならず、大きな広がりを見せていることから高い注目を集めています。今回はSIの分析ビジネスに焦点を当て、現在の状況と未来について、SI事業部営業部マーケティング課課長の大野敬司さん(以下、大野)と、同事業部SIイノベーションセンター 製造課課長の佐藤哲也さん(以下、佐藤)にお話を聞きました。

                   
                                 大野課長㊧と佐藤課長

安定同位体は自然界やヒトの体内にも存在
Q:SIの利用方法や分析方法などを伺う前に、そもそもSIとは何なのでしょうか?
大野:SIとはStable Isotopeの頭文字をとったもので、日本語では安定同位体と言います。通常の元素に比べて、質量数が重くなっていることが特徴です。例えば標準的な酸素(O)の質量数は16ですが、酸素の安定同位体には質量数が17、18のものが存在します。これは原子の核に存在する中性子の数が多いため重くなります。一般に標準的な質量数以外の元素は構造が不安定になるのですが、質量数17、18の酸素は構造が安定しており、存在し続けることができます。これをSIと呼んでいて、SIは自然界や我々の体の中にも存在しています。酸素の他にも、水素、炭素、窒素など、馴染みのある元素にも安定同位体があります。当社では、自然環境の中に含まれている質量数18のOを濃縮した「Water-18O」の製造を行っています。

Q:SIの製造はどのようにして行うのでしょうか? 
佐藤:先ほどお話した通り、安定同位体は空気中にも含まれています。質量数16の標準的なOは、酸素原子中に約99.76%含まれている一方、質量数17のOは約0.037%、質量数18のOは約0.20%しか含まれていません。この希少なSIを空気から取り出すために、当社がこれまで培ってきた高度な空気分離技術を用いて、高濃度の18Oを製造しています。これを行うのが空気分離装置(ASU)です。ASUが空気を吸い込み、吸い込んだ空気を窒素、酸素、アルゴンに分離していきます。その分離した酸素をさらに精密に蒸留することでSIの18Oを濃縮し、水素と結合させてWater-18Oを製造しています。現在、このWater-18Oを生産できるプラントは国内に3ヵ所あり、年間600㎏の生産を安定的に行っています。

                       
                              安定同位体18Oの製造プラント(千葉県)

独自の分析技術が国の信頼性基準に適合
Q:SIを活用した分析が広がっているとのことですが、具体的にどのような場面で利用されているのでしょうか?具体例を交えながら教えて下さい
大野:SIを活用した分析は、医療分野での様々な検査や診断用途をはじめとして、エネルギー消費量の測定や、生物分野における生態系の把握に加えて、食品分野では原産地の確認にも用いられています。当社におけるSI分析の知見は25年以上の経験から積み重ねられてきました。飛躍のきっかけとなったのは、胃がんの原因となるヘリコバクターピロリ菌の有無を確認するために、炭素(C)の安定同位体である13Cを活用した呼気分析技術の確立です。その後、血液や尿、汗など様々な生体サンプルの分析機会が増加し、より高度な分析技術を開発し、知見を蓄積することができるようになりました。

佐藤:その中で近年、注力してきたのが17Oの分析技術の高度化です。研究機関からの要望に応じて17Oを利用したMRI用の造影剤開発に協力して参りましたが、この開発を進めるためには医薬品の申請に関わる分析基準である「申請資料の信頼性基準」に適合した分析技術の確立が必須でした。これは17Oの濃度を分析する方法がグローバル規模でも確立していないため、その分析方法を社内で構築し、信頼性の高い分析方法であることを実証することで、17Oを利用した診断薬の開発を推進することができるからです。この分析方法の確立と信頼性基準の適合には5年の歳月がかかりましたが、今後17Oへの活用だけでなく、将来の様々な安定同位体(13Cや重水素等)を活用した新規医療分野へ展開できる可能性を考えれば、この分析技術は当社の“宝”と言える技術です。
今後は脳神経疾患、眼科疾患、整形外科疾患等を早期診断する際の造影剤開発が進むよう協力していきたいと考えています。また、これまで構築した基盤技術は、国立健康・栄養研究所(NIHN)、北海道大学、水産資源研究所、宮内庁など、様々な研究分野への分析支援にも活用されています。
※)信頼性基準とは新規医薬品の承認申請資料作成の際等に使われる基準で、データの正確性、完全性、保存性の保証が求められる。

           
                               安定同位体を活用した様々な分析シーン

健康寿命の延伸に貢献したい
Q:最後にお二人が目指すSI分析ビジネスの未来について教えて下さい
大野・佐藤: 国の信頼性基準に適合した当社のSI分析技術は医療診断の分野に留まらず、SIを使用した医薬品開発でも、その役割を果たせる可能性があると考えています。引き続き、さらなる技術開発を進めることによって、安定同位体を利用した医薬品や診断薬が予防医学の発展と健康寿命の延伸に貢献できる時が来ることを期待しています。
また今後、SI分析ビジネスのすそ野はさらに広がることが見込まれます。半導体材料分野といった拡大するビジネスフィールドでの品質管理分析にも技術活用を図り、様々なアプリケーションを創出していきます。

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