極めて低い沸点(−268.9℃)をもち、MRI(磁気共鳴画像装置)や超伝導マグネットの駆動、超低温実験などに欠かせないヘリウム。日本においてヘリウムは100%海外からの輸入に頼っており、産出できる地域も限られているため価格の高騰が続いています。そんな中、島根大学の総合科学研究支援センターでは20年にわたり、大陽日酸のヘリウム再凝縮装置を活用して、ヘリウムの使用量を最適化。コストの削減に大きな成果を上げています。今回は島根大学 総合科学研究支援センターの西郡准教授に、ヘリウム再凝縮装置導入の効果や今後の展望についてお話を伺いました。
(2025年12月19日掲載)

島根大学 総合科学研究支援センター 西郡准教授
低温実験環境を支える選択―ヘリウム再凝縮装置で導入・運営コストを削減
Q:はじめに、当社のヘリウム再凝縮装置を導入していただいた経緯について教えていただけますでしょうか?
約20年前になりますが、学内組織として総合科学研究支援センターの前身となる機器分析センターを立ち上げました。低温センター(極低温領域の実験ができる環境)の機能を有した分析センターにしたかったので、ヘリウム液化機の導入を考えていましたが、学内でのヘリウム使用量が小規模だったため、ヘリウム液化機は設備規模と費用が見合わず、導入許可を得ることができませんでした。そこで、予算面を考慮し、ヘリウム再凝縮装置を代替として活用することで小規模な低温センターの役割を果たせるよう構成を検討しました。これが導入のきっかけです。
総合科学研究支援センターは共同利用施設として、島根大学の学生や大学内外の研究者に向けてさまざまな実験設備を提供しています。超低温領域の実験設備においても、分子構造の解析などに用いるNMR(核磁気共鳴装置)や、試料の物理特性を測定するPPMS(物理特性測定装置)、磁気特性を測定するMPMS(磁気特性測定システム)といった装置を揃えています。大陽日酸のヘリウム再凝縮装置は、長年当センターにあるPPMSおよびMPMSの運用に役立って来ました。大きなトラブルもなく、20年間稼働しています。

総合科学研究支援センターに導入した大陽日酸製のヘリウム再凝縮装置(TRG-375型)
Q:導入の決め手になった理由を教えていただけますでしょうか?
導入の決め手は主に2つあります。1つは再凝縮可能なガスの温度ですね。他メーカーの装置は、蒸発した冷たいガスをすぐに再凝縮しなくてはならない仕様でしたが、大陽日酸製の装置は常温のガスから直接再凝縮できるので運用の幅が広がります。
もう1つは、再凝縮できるヘリウムの量。大陽日酸の装置は1台でPPMSやMPMSの2台分を十分にカバーできる能力を持っています。他メーカーの場合、構造的にも測定装置1台ごとに再凝縮装置を設置する必要がありましたので、イニシャルコストの点でも大陽日酸の装置には大きなメリットがありました。
私たちが行っている実際の運用は、冷たいガスで軽く予冷した装置のデュワーに再凝縮装置を接続してベッセル(液体ヘリウムを保持する専用容器)からの蒸発ガスを直接液化して溜めて行くという手法です。通常の初期充填では蒸発によるロスが多くデュワーに溜めるだけで60L近い液体ヘリウムが必要ですが、私たちの手法では蒸発ロスを抑えられるため、100Lの液体ヘリウムで装置2台分のデュワーにヘリウムを溜めてもお釣りが来ます。さらに2つのデュワーの間で再凝縮装置を行ったり来たりさせることによって、2台の測定装置を半年にわたって長期間維持しています。このような運用が出来るのも、性能が高く、操作方法に柔軟性のある大陽日酸の再凝縮装置ならではと思います。

再凝縮装置をPPMSに繋いだところ
年間3~4百万円のコストカットに成功
Q:ヘリウムはここのところずっと高騰が続いています
20年前から考えると、8倍以上になっているのではないでしょうか。通常であればPPMS装置1台で1日7L程度ヘリウムは蒸発してしまいます。100Lの液体ヘリウムを購入しても2週間で干上がってしまいます。そこで再凝縮装置の出番ですが、大陽日酸の装置1台を活用して2台の測定装置を運用すれば、液体ヘリウムだけでなく、電気料金や数年に1度必要となるメンテナンス費用も、すべて再凝縮装置1台分で済みます。それだけで年間3~4百万円の節約効果があります。この装置がなかったら、当センターの充実した低温実験環境は維持できていないですね。

西郡准教授
大陽日酸のヘリウム再凝縮装置で描く新たな循環モデル
Q:今後の展望などもお聞かせ願えますでしょうか?
島根大学では当センターに設置の装置を含め、NMR装置を複数台運用していまして、これらはいずれも液体ヘリウムを必要とする装置です。現在は、それぞれのNMRに個別のヘリウム再凝縮装置が付いていますが、どれも1年ほどで再凝縮装置のメンテナンスが必要となります。この費用が装置を維持管理するうえで大きな負担となっています。
一方で、大陽日酸のヘリウム再凝縮装置は高い凝縮能力を持ち、ベッセルを用意することで再凝縮して余った液体ヘリウムを貯蔵しておくことが可能です。
そこで考えているのが、液体ヘリウムを使用するセンター内の装置を大陽日酸製のヘリウム再凝縮装置につなげることで、凝縮した液体ヘリウムを各装置に戻すという循環サイクルの構築です。これが可能になれば再凝縮装置の数を減らせるので、結果として電気代やメンテナンス費用も大幅に抑えることができます。
さらに視野を広げてみると、大学外でも病院のMRIなどヘリウムの利用シーンはさまざまあります。ヘリウムは希少かつ限りある資源ですから、どう再利用するかは誰しもが頭を抱える問題。いずれは地域も巻き込んで、大陽日酸の装置によるミニ液化センターなるものができればと夢を描いてしまいますね。
−本日はありがとうございました。