タイにおけるカーレース向け水素供給対応の取り組み

タイにおけるカーレース向け水素供給対応の取り組み

カーボンニュートラル(CN)の推進に注目を集めているのが水素です。この水素を活用したCNの取り組みが、東南アジアのタイでトヨタ自動車(以下、トヨタ社)を中心に行われています。昨年12月には、10時間耐久のレースに同社の水素エンジン車のカローラが参戦。当社は同社への水素の供給・充填を担当しました。この役割を全うするためにグループ企業と共に取り組んだ、工業ガスユニット営業開発部長の小沢重樹さん(以下、小沢)と、同部営業開発課課長の北野博康さん(以下、北野)にお話を聞きました。

  
北野課長㊧と小沢部長


Q1:タイで水素をトヨタ社向けに供給することに至った背景を教えて下さい
北野:これまでトヨタ社の水素エンジンカローラが参戦した国内のレースでは、2021年から水素の供給と充填を担当しました。さらに2022年には2023年12月と同じ、タイのブリーラムにある“チャーン・インターナショナル・サーキット”で行われた25時間耐久レース※において水素供給と充填を行いました。
このような取り組みに至ったのは、2011年に遡ります。この年の1月に民間事業者13社による「FCV国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」が公表されました。この13社にトヨタ社と当社がいたことに加えて、当社は2002年から2015年にかけ、霞が関で水素ステーションによる給水素を公用車向けに行っていました。この実績もあり、トヨタ社へ水素を供給することなりました。
※水素エンジンカローラの走行は開始4時間と終了までの4時間で計8時間
 


走行する水素エンジンカローラ


TNSE・NSTHと協働で対応
Q2:今回の10時間耐久レースの水素供給と充填はどのような体制で対応しましたか?
小沢:今回は日本から大陽日酸と大陽日酸エンジニアリング(以下、TNSE社)の総勢10名でメンバーを構成したのに加えて、日本酸素ホールディングスのグループ会社ニッポンサンソタイランド(以下、NSTH社)と連携し、供給・充填に必要な水素やコンプレッサーなどのユーティリティの確保を担当してもらいました。
また、NSTH社には確保したユーティリティの現場でのレイアウトも依頼しました。担当してもらった現地スタッフの方は確保から設置、そして撤収に至る流れを全て担当することができて非常に有意義な仕事だったと話してくれました。
 


水素充填の様子


Q3:今回の対応の中で難しかったことはありましたか?
小沢:やはり、日本と同じ環境ではないことです。同じ環境ではないからこそ起こり得る様々なリスクを想定した対応が必要となりました。しかし、私たちにはそのリスクを低減することができる体制が整っていました。
北野:技術面の安全性は当社のガスエンジニアリングセンターとTNSE社でしっかり担保できていました。また、先ほどお話した通り、現地のNSTH社と連携することによって、現地企業との間のコミュニケーションがスムーズに運び、ミッションを無事に成し遂げることが出来ました。22年12月に行われた25時間耐久レースに参加していた経験も大きかったと思います。その時の経験を活かして、コンプレッサーの設置台数の検討や、効率的な水素充填環境の整備などを進めることによって、トヨタ社の計画通りに水素充填を行うことができました。
小沢:また、関係者全員が同じイメージと認識の上でやることを理解した状態を作り上げるために、しっかりとコミュニケーションをとることを意識しました。大変なことも多かった分、最後までカローラが完走してくれて本当に良かったです。

日本と同じ品質をお客さまにご提供
Q4:この経験を通して大陽日酸グループは何を得られましたか?
小沢:今回の対応を通して改めて感じたことは2つあります。1つ目は、当社の技術レベルは極めて高く、例え海外であっても、日本で対応するのと同じ品質をお客さまにご提供できるということです。まさに当社が掲げる“The Gas Professionals”として、あるべき姿と言えます。2つ目は、お客さまの求める技術やエンジニアリングをご提供することで、お客さまが当社グループに価値をより感じて頂けるということです。
北野:お客さまが当社に求めるニーズは、当然のことながらそれぞれ異なります。当社グループの持つ技術力をそのニーズに合わせて上手く発揮することで、お客さまにとって高い付加価値に変わることが今回の対応を通して体感することができました。再認識できた当社グループの高い付加値を生む技術力を広くお客さまにお伝えし、より広くご提案したいと思います。


使用された移動式水素ステーション


Q5:最後に今回の経験を通じての今後のタイにおけるビジネス展望について教えて下さい。
北野:タイにおけるエネルギーインフラは、ガソリンスタンドでLPガスが購入できるなど、将来的な水素供給インフラの基盤となりうるベースは整っている状況ではありますが、短中期的には移動式ステーションの需要が旺盛になるとみています。その中で必要になるのが、より大容量で短時間の充填が可能な新しい移動式水素ステーション(以下、移動式ステーション)です。
小沢;今回のレースでの供給も同様ですが、水素の充填量の多さ、充填時間の短さが高付加価値に繋がって行きます。現在の移動式ステーションの能力では足りないため、より多くの水素ガスが充填できる、新しいコンセプトの新型機の開発が急務と私たちは考えています。併せて、CNの面からも貢献できることが増えてくることが予想されます。例えば、山間部などでの水素供給です。そういった山間部には所々に町があるものの、定置式ステーションが建設されるとは考えにくいため、これらの場所には移動式ステーションで給水素することが想定されます。そのため、一度に多くの場所を回れるだけの、充填量と効率性を兼ね備えた新:移動式ステーションと、その運用スキームが必要になって来ます。今後もNSTHとの連携を図りながら、タイでのビジネス拡大に取り組んで行きます。